栗の恵みをいただく ― 茶席に添える秋の滋味

秋の茶席に欠かせない味覚といえば、栗。

 

山々の実りとして古くから親しまれてきたこの小さな実には、秋の自然の力がぎゅっと詰まっています。

ほんのりとした甘みと香ばしさの奥に、体を整えるさまざまな栄養が秘められていることをご存じでしょうか。

栗に多く含まれるのは、やさしい甘みを生み出すデンプン質、そして食物繊維、カリウム、ビタミンCなど。

特に栗のビタミンCは、でんぷんに包まれているため加熱しても壊れにくく、茶席でよく用いられる蒸し栗や栗きんとんの中にも、しっかりと残っています。

夏の疲れを癒し、冬に向けて体を整える――栗はまさに「季節の変わり目に寄り添う実」といえるでしょう。

茶の湯において、菓子はただ甘味を添えるものではなく、季節と心を映す大切な一服の一部です。

秋の茶席に登場する栗菓子には、それぞれに意味と美しさがあります。


たとえば、岐阜・中津川や恵那の名菓「栗きんとん」は、栗と砂糖だけで練り上げた素朴で上品な味わい。

濃茶の深い苦みと出会うことで、自然の甘みがいっそう際立ち、舌の上で穏やかな調和を生み出します。

 

また、十一月の炉開きに用いられる「亥の子餅」も、栗や小豆を混ぜた縁起のよい菓子として知られています。

無病息災と五穀豊穣を願うその形には、火の季節への感謝と、新しい茶の年を迎える清らかな祈りが込められています。

この時季の茶席でいただく栗は、味わいとともに「感謝」「整え」「祈り」という三つの心をつなぐ存在でもあるのです。

栄養学の視点から見れば、栗の食物繊維は腸を整え、カリウムは体内の塩分バランスを調えます。

鉄や銅、ビタミンB群も豊富で、冷えやすい季節に活力を与えてくれる自然のサプリメントのような働きを持っています。

そして何より、茶席で静かにいただく一粒の栗には、自然の循環に感謝する心が宿ります。

茶の湯が大切にする「和敬清寂」の精神そのものが、栗の滋味の中に息づいているのです。

秋の一服に添える栗菓子は、味わいだけでなく、体と心をやさしく包む存在。

自然の恵みをそのままにいただくことが、最も贅沢な養生なのかもしれません。

湯の音に耳を澄ましながら、栗のほくほくとした甘みを味わう時間――

それは、季節と自分が静かに調和する、ZENのひとときです。