茶の湯には、一年をふたつの季節に分ける大きな区切りがあります。それが、「炉」と「風炉」です。 11月から4月までは、畳に切られた炉(ろ)を用い、寒い季節にふさわしいあたたかみのある茶室の空気をつくります。そして、5月。新緑がまぶしく、空気が緩やかに動きはじめる頃、茶室のしつらえも移り変わり、風炉(ふろ)の季節がやってきます。 風炉は、夏の装いのひとつ。火元が茶室中央から少し離れ、釜の位置も高くなり、全体に風通しのよいすっきりとした印象になります。炎の気配を抑え、涼を感じさせる工夫が、そこかしこに施されるのです。 ZenLabの朱雀軒でも、毎年この時期になると、風炉の支度を始めます。灰を新たに調え、五徳の高さを確かめ、風炉釜を掛けて茶の湯の準備を整えます。炉から風炉へと切り替わるこのときは、季節を一つ超えるような、凛とした緊張と清々しさに満ちています。 初風炉は、茶の湯における“夏の始まり”。11月の炉開きが「茶の正月」とも呼ばれる新年の節目であるのに対し、風炉開きは、爽やかな季節にふさわしい道具と心構えを整えて、あらたな一服に向かう転換のときです。 掛物や茶碗、菓子にいたるまで、初風炉には清らかな風を映すような道具を選びます。花入には、涼やかで軽やかな印象の籠がよく合います。野に咲く早夏の草花をふんわりと生け、風をまとうような花の姿が、茶室に季節の光を添えます。 点前も、炉とは少し違った手順になります。居前の位置や、柄杓の扱い方、風炉釜の蓋の位置など――細やかな変化に気づくたび、自然と所作も引き締まり、ひとつひとつが新鮮に感じられます。 このように、茶の湯は、季節とともに静かに、けれど確かに姿を変えてゆきます。それは単なる形式の違いではなく、自然と寄り添いながら、その気配を道具や動作に映していく、丁寧な営みです。 今年もまた、ZenLabの茶室に風炉の季節がめぐってきました。灰を整え、釜を掛け、静かに湯気が立ちのぼるそのひとときを、お越しになる皆さまとご一緒に、丁寧に味わってまいります。