立春は一年の節目とされ、暦の上ではこの日を境に新しい春が始まります。まだ寒さは残るものの、日差しは少しずつ柔らかくなり、ふと吹く風に春の香りが混じるような季節。茶道においても、立春は単なる季節の移り変わりではなく、新たな始まりを告げる大切な時期とされています。
立春と茶道のつながり

茶道では、二十四節気や歳時記を大切にし、その時々の趣を茶席に映します。立春は旧暦の新年にあたり、茶の湯においても特別な意味を持つ節目です。冬の茶事がここから春の装いへと移り変わり、茶室のしつらえや道具にも春の兆しが感じられるようになります。
床の間には、吉祥を表す書や、春の訪れを告げる軸が掛けられることが多く、茶道具にも変化が現れます。雪の名残を感じさせつつも、春を迎える喜びを表現した設えが、この時期ならではの趣を生み出します。
立春にふさわしい茶道具と趣向
立春の茶席では、以下のような趣向が考えられます。
• 茶碗:雪解けの水を思わせる青みがかった釉薬のものや、春霞のような柔らかな景色を映したものが趣を添えます。
• 棗・茶入:福寿草やタンポポ、わらびなど、厳しい冬を乗り越えて芽吹く草花が描かれたものが、生命力の象徴として好まれます。
• 主菓子:「立春大福」や、梅をかたどった和菓子、ヨモギやフキノトウを使った菓子も、早春の趣を感じさせます。
• 花:椿や水仙のほか、芽吹いたばかりの早春の草花を生けることで、自然の息吹を茶席に取り入れます。
また、茶席では「立春大吉」という言葉が交わされることもあります。これは立春の日に門に貼るお札にも使われる言葉で、一年の無病息災を願うもの。茶の湯の場においても、この言葉とともに一服の茶を味わい、新たな季節の訪れを祝うのも、立春ならではの楽しみ方でしょう。
茶道は、こうして日々の暮らしに季節の彩りを運んでくれます。
ただ形をなぞるのではなく、立春という節目を心で感じながら、一服の茶とともに新しい春の息吹を迎えてみてはいかがでしょうか。