三月、四月の茶室には、春の気配が満ちてきます。外を歩けば、道端にはタンポポが黄色い花を咲かせ、つくしが顔を出し、スミレの紫が目に優しく映ります。少し山の方へ足を延ばせば、蕨やゼンマイも見つかるころ。こうした春の野の草花が芽吹く季節には、炉の中の景色にも春の風情を映し出したくなります。

この時期の茶の湯で用いられるのが「透木釜(すきぎがま)」です。別名「裏鏊釜(うらごうがま)」とも呼ばれます。透木釜は、釜の羽根(側面に張り出した部分)が炉縁の上に掛かるため、炉の中の炭火が直接見えません。そのため、火の温もりを感じながらも、直火の強い印象が和らぎ、穏やかな春の空気にふさわしい趣となります。
また、透木釜の「裏鏊(うらごう)」という別名には、興味深い由来があります。「鏊(ごう)」とは、鉄製の焼き鍋のこと。その焼き鍋を逆さにして底に穴をあけ、釜の口とし、別に作った底を後から取り付けたのが「裏鏊釜」です。その独特の形状から、春の茶席で特に風情を添える釜として用いられるようになりました。

茶室のしつらえも、春らしさを感じるものが好まれます。床の間には、春を寿ぐ掛物や、草花を生けた花入れを飾り、釜とともに季節を表現します。炭の扱いも、冬とは異なり、少し火を抑え気味にして、部屋が熱くなりすぎないよう調整します。こうした細やかな心遣いが、春の茶の湯をより豊かなものにしてくれるのです。
春の透木釜の湯の沸く音に耳を澄ませ、湯気が静かに立ちのぼる様子を眺めながら、野の花が咲き始める季節の移ろいを味わう。そんなひとときこそ、春の茶の湯の醍醐味といえるでしょう。