まだ7月だというのに、空も風もすっかり真夏の気配。
強い日差しに照らされる毎日、外に出るだけで汗ばみ、
身体も心も、どこかざわついたように落ち着きません。
そんな中、茶の湯の世界では、暑さに抗うのではなく、
**「涼しさをしつらえる」**ことで、この季節とやさしく向き合います。

たとえば、使う器から。
薄茶には、手のひらに涼やかに触れる平茶碗を。
広く浅い形が風を呼び込み、見た目にも清らかな涼をたたえます。

濃茶には、ガラスの茶入を用いることもあります。
光を受けてきらりと輝くその姿は、夏の川面のよう。
その一瞬の光が、空間に清涼感を添えてくれます。

お菓子にも、夏の工夫があります。
薄青や緑に染めた練切に寒天をあしらった主菓子。
涼やかな色合いと、くずや寒天の食感が、
味わいからも涼を運んでくれます。
それを盛るのは、磁器やガラスの涼しげな菓子器。
器を手に取る所作もまた、涼を整えるひとときです。
こうして、視覚・触覚・味覚のすべてに涼を届ける工夫が、
夏の茶席には満ちているのです。
これらに共通するのは、
冷房や氷のような「即効性の冷たさ」ではないということ。
ただ冷やすのではなく、
静けさや間合い、目に映るものや手触りといった
五感の感受性をととのえることで、
**「感じとる涼しさ」**を引き出しているのです。
この感性は、日常生活にも生かせます。
たとえば、朝のうちに窓を開け、風を通すこと。
食卓にガラスの器を使って盛りつけを涼やかに整えること。
打ち水をする、木陰でひと息つく、薄い布をまとって風を感じる——
どれも小さなことですが、
それを“しつらえる”意識をもって重ねていくことで、
暑さの中に心落ち着く時間が生まれてくるのです。
茶の湯は、決して特別な空間のものではありません。
季節を受け入れ、手をかけ、心を整えることで、
その時々をやさしく乗り越える知恵が宿っています。
今年の夏は、茶の湯の工夫をヒントに、
“涼しさを整える”日常を始めてみませんか。