梅雨の季節がやってくると、茶室のしつらえもまた、静かに衣替えを始めます。
湿度を帯びた空気のなかに、いかにして涼やかさをもたらすか。
茶の湯における“涼”の演出は、決して大げさなものではなく、むしろ、目に見えない心配りにこそ美しさが宿ります。
たとえば、風炉。
初夏から使い始めた面取り風炉は火元がよく見え、季節の始まりにはふさわしいものですが、梅雨に入ると、火の見えない「切り合わせ風炉」に替えることがあります。
炎を視覚から遠ざけることで、ほんの少しでも涼を感じてもらいたいという亭主のさりげない工夫です。
茶碗や道具の選び方にも、季節の涼感がにじみます。
光沢のある青磁や刷毛目の器、あるいは青楓や流水文様が描かれたものは、目にも涼やかで、ひと服の時間に爽やかな風を運んでくれます。
しっとりとした手触りの陶器から、つるりとした磁器やガラスの器へと移ろう季節でもあります。
花入もまた、季節を語る大切な要素です。
土物の重厚な花入から、軽やかな籠花入や、涼やかな竹の花入へと替えるだけで、茶室全体の空気が変わります。
自然素材の持つ清らかさが、雨の季節の湿り気に美しく調和し、控えめに入れられた野の花が、空間に静けさと余白を生み出してくれます。
そして、もうひとつの大切な設えが「音」です。
梅雨時には、雨音や軒先を打つしずくの音が自然に茶室に響きます。
あえて風鈴や人工の音を加えることなく、自然の音そのものを背景とする——それもまた、茶の湯における“音のしつらえ”です。
床の間には、この時期ならではの掛け物を掛けます。
たとえば禅語の「露堂々(ろどうどう)」。
“露、堂々たり”——あるがままに、ただそこにある清らかさ。
湿気に満ちた時季だからこそ、何も飾らず、ありのままに生きることの尊さが、深く心にしみわたります。
静かな空間に、言葉がしっとりと沁み込んでゆくような、そんな床の間のひとときです。
茶室は、外と内の境界をやわらかくつなぐ空間。
雨音が心を鎮め、一輪の花が湿気を忘れさせるほどの瑞々しさを放ちます。
この季節ならではの、目には見えない“おもてなし”の数々。
湿度のなかでこそ際立つ静けさと涼感を、亭主はひとつひとつ丁寧に仕込みます。
それこそが、梅雨の茶の湯に息づく、美しさなのです。