暖房が恋しくなる頃に「亥の子餅」を食べるのはなぜ?

寒さが増して暖房が恋しくなるこの時期、茶道でも「亥の子(いのこ)」の日には特別な点前が行われ、炉開きをして冬の準備を整えます。そして、「亥の子餅」というお餅を食べるのも、実はこの季節の風物詩です。今回は、平安時代からの習わしであるこの「亥の子餅」をいただく意味についてお話しましょう。


**「亥の子」ってなに?**
旧暦では10月が「亥の月」にあたり、その最初の「亥の日」を「亥の子」と呼びます。これは日本に伝わる前、中国で始まった風習でした。「亥の子」には、大豆や小豆などの穀物を混ぜたお餅を食べ、健康を願う風習があり、紫式部の『源氏物語』にも登場しています。イケメン光源氏や紫の上も食べたのかも、と思うと少しロマンを感じますね。

**どうして「亥の子」に餅を食べるの?**
「亥の子」にお餅を食べる意味には、無病息災の願いが込められています。医療が発達していなかった当時、病気にならないことが健康を守るための最善策でした。さらに、鎌倉時代になると「イノシシはたくさん子を産むから、子孫繁栄にも良い」という理由で、武家でも「亥の子餅」を食べる習慣が広まっていったそうです。


**茶道と「亥の子」の関係は?**
江戸時代以降、「亥の子」には炬燵(こたつ)や炉の準備が行われました。陰陽五行説では「亥」は水の属性を持ち、火を抑える力があるとされ、火災から家を守る願いも込められていたのです。炉開きも「亥の子」に合わせて行い、防火の祈りと共に温かいおもてなしの準備が始まります。そして、暖房器具を使い始めるこの時期に、火災予防の願いを込めて「亥の子餅」がいただかれるようになりました。現代でも、茶席では「亥の子餅」をいただきながら炉開きを祝うことが続いています。

**昔から続く意味に気づくこと**
無病息災、子孫繁栄、家内安全―古くからの習わしには、それぞれの時代の人々が大切にしてきた願いが込められています。茶道の点前も同じで、「こうするものだから」と無意識に続けるのではなく、「なぜそうするのか」に目を向けると、その中に詰まった思いに気づけます。茶道の所作や日本の伝統行事を通じて、私たちも心を込めた温かい時間を大切にしたいですね。