11月に入り、茶道の世界では炉開きが行われ、茶室の趣が大きく変わります。畳に触れる冷たい空気を和らげるように、炉から立ち上る湯気が静かに広がり、茶室全体を包み込むような温かさを感じる季節です。風炉から炉への移行に伴い、茶室の雰囲気も一変し、道具選びにも冬ならではの工夫が求められます。
この記事では、炉の季節における点前の準備と、季節に応じた道具の変化についてお話しします。
まず、茶碗の選び方から見ていきましょう。
炉の季節になると、広口の茶碗は使用されることが少なくなります。広口の茶碗では、茶が冷めやすく温もりが長く続かないため、寒い時期には向かないとされています。その代わり、手のひらで包み込むとじんわりと暖かさが伝わる形状の茶碗が好まれます。特に筒形で深さのある茶碗は、茶室の寒さを和らげ、茶の温もりを保つための工夫が凝らされています。この形状が茶の温かさを長く楽しむ秘訣であり、冬の茶道には欠かせない存在です。
次に、花入の変化についてです。
風炉の季節には竹細工や木製の花入が用いられ、その軽やかで涼しげな姿が夏の茶室を彩ります。一方、炉の季節には陶製の花入が選ばれます。陶製の花入は、しっかりとした重量感と柔らかい質感で、炉のぬくもりや冬の落ち着きを一層引き立てます。また、花の選び方にも変化が見られます。風炉の季節には涼しげな草花が中心となりますが、冬の茶室では椿などの木の花が主役です。その厚みのある葉と力強い姿は、冬の静寂と調和し、茶室に穏やかな温かみを加えてくれます。
さらに、菓子器も季節に合わせて選ばれます。
夏の風炉の季節には、涼を感じさせる焼き物やガラス製の器が主に用いられます。透明感のある器は、冷たい水の流れや涼風を連想させ、目にも心にも涼やかさを届けます。しかし、炉の季節には漆器の食籠が登場します。漆器のしっとりとした質感や深みのある艶やかさは、冬の茶室に落ち着きと温かさをもたらします。蒸し菓子の立ち上る湯気とともに、冬の茶室全体に穏やかなぬくもりを広げる存在です。
このように、炉の季節の茶道では、道具選びや花の取り合わせに至るまで、繊細な季節感が息づいています。それは、単に温かさを保つ工夫だけでなく、茶室に冬ならではの静けさやぬくもりをもたらし、五感で季節を味わうひとときへと導いてくれます。点前の一つひとつに、冬の茶道ならではの美意識が込められているのです。
季節の移ろいを感じながら、道具や花の取り合わせを工夫することで、茶道の世界はさらに深まり、豊かなものとなります。この冬もぜひ、静寂と温かさに包まれた茶室で、炉の点前を楽しんでみてはいかがでしょうか。